相続税対策として注目される「小規模宅地等の特例」とは
今回は、「小規模宅地等の特例」についてお話しします。
相続税の負担を軽くするための制度として、この特例は非常に注目されています。
たとえば、親が住んでいた家を子どもが相続する場合、その家の土地の評価額が大きいと相続税も高くなってしまいます。
この特例を使えば、一定の条件を満たすことで、その土地の評価額を最大80%も減額できる可能性があるのです。
たとえば、都内の住宅地にある土地を相続する場合、本来なら土地の評価額が5,000万円だったとします。
この特例を使えば、評価額は1,000万円まで下がることがあり、結果として支払う相続税が何百万円も減るケースもあります。
制度の理解が遅れると損をする可能性も
この特例は便利な反面、使える条件が細かく決まっており、事前に知っておかないと適用できないこともあります。たとえば、「相続した土地に一定期間住み続けなければならない」といった要件を知らずに家を売ってしまうと、特例が無効になる場合もあります。
さらに、相続の申告期限(通常は相続開始から10ヶ月以内)までに特例の申請を行わないと、自動的に適用されるわけではありません。「知っていれば何百万円も得をしたのに…」という事態を防ぐためにも、事前の知識が非常に重要です。
1.小規模宅地等の特例の概要
制度の目的と適用される背景
この小規模宅地等の特例は特に重要な制度だと感じています。これは、「家を相続したいけれど、相続税が高くて住み続けられない」という人たちを救うために作られた制度です。家族が長年暮らしてきた自宅や、個人事業に使っていた土地が相続の対象となった場合、土地の評価額が高いと、税金を支払うためにその土地を売らなければならなくなるケースも少なくありません。
この制度は、そうした“土地を守りたい”という相続人のために、一定の条件を満たせば相続税の対象となる土地の評価額を大幅に減額するという仕組みです。国としても、居住や事業を継続してもらったほうが地域経済にとってプラスになるため、この特例が用意されています。
特例が適用される宅地の種類
特例の対象となるのは、大きく分けて「自宅用地」「事業用地」「貸付事業用地」の3種類です。
たとえば「自宅用地」の場合、被相続人(亡くなった方)が住んでいた家の土地が対象になります。相続人がその家に住み続けるなどの条件を満たせば、土地の評価額を最大80%減らすことができます。
一方で、「事業用地」とは、たとえばパン屋さんや町工場など、被相続人が事業を行っていた土地のことです。こちらも継続して事業を行うことで、同じく80%の減額が可能です。
「貸付事業用地」はアパートや駐車場など、第三者に貸して収入を得ていた土地です。こちらは他の2つと比べて減額率は低く、最大で50%までの減額となります。
減額の対象となる割合とその仕組み
減額される割合は宅地の種類によって異なり、たとえば「自宅用地」であれば最大330㎡までが80%の減額対象です。これは、仮に評価額が1㎡あたり50万円の土地が330㎡あった場合、本来は1億6,500万円の評価になるところが、特例適用後は約3,300万円の評価になるという計算です。
このように、評価額が下がることで課税対象額も大幅に減り、結果として支払う相続税も大幅に少なくなるというのが特例の大きなメリットです。ただし、どの宅地にも「限度面積」があり、これを超える部分には特例が適用されない点には注意が必要です。
2.特例が適用されるための条件
被相続人と相続人の関係性
小規模宅地等の特例を受けるためには、相続する人と亡くなった人(被相続人)の関係が非常に重要になります。特例が最もスムーズに適用されやすいのは、「配偶者」や「同居していた親族」です。
たとえば、父親と一緒に長年同じ家に暮らしていた長男がその家を相続する場合、特例を適用しやすい状況といえます。一方で、長男はすでに独立して別の場所に住んでおり、相続後すぐに売却してしまった場合などは、特例の適用が難しくなる可能性があります。
また、同居していない子どもが相続する場合でも、一定の要件を満たせば特例が適用されるケースもあります。たとえば「家なき子特例」と呼ばれる制度があり、相続開始前3年以内に自分や配偶者が所有する家に住んでいないこと、賃貸住宅に住んでいたことなどが条件になります。
宅地の使用状況と用途の要件
相続される土地が、どのように使われていたかも大切なポイントです。特例が認められるのは、以下のような用途に限られています。
- 自宅として住んでいた(被相続人が居住していた)
- 自営業で使用していた(土地の上に店舗や工場などがある)
- アパート経営などで貸していた
たとえば、被相続人が自宅として使っていた土地を、相続人が引き続き住む場合は問題ありません。しかし、単に空き地として所有していた場合や、遊休地だった場合は、特例の対象外となることがあります。
また、貸付事業用地として使っていた場合でも、「相続開始時に事業が継続している」ことや、「5年以上の貸付実績がある」ことなど、追加の条件が設けられています。
相続後の保有・居住要件
さらに、土地を相続したあとにもクリアすべき条件があります。たとえば、相続人が「その土地を一定期間保有し続ける」ことや、「実際に住み続ける」ことなどが求められます。
自宅用地の場合、多くのケースで「相続税の申告期限まで住み続けること」が条件になります。たとえば、母親が亡くなり、その自宅を長女が相続して住み続ける場合、申告期限(通常10ヶ月以内)までは引き続き居住していなければなりません。
この期間中に家を売却してしまったり、第三者に貸してしまうと、せっかくの特例が取り消され、通常どおりの相続税が課されるおそれがあります。相続したあとに「すぐに売る予定」という人には、この特例は向いていないこともあるので注意が必要です。
3.特例適用時の注意点と落とし穴
適用除外となるケースとは
小規模宅地等の特例は大きな節税効果がある一方で、「一定のケースでは適用されない」ことを知っておく必要があります。
たとえば、被相続人の自宅に同居していた親族が相続する場合でも、相続税の申告期限前にその家を売却してしまうと、特例の適用が認められないことがあります。
また、「家なき子特例」を使うつもりでいた相続人が、相続開始の3年以内に一時的にでも自己所有の家に住んでいた場合も対象外となります。実際にあった例では、単身赴任中に一時帰省したことで「自己の家に住んでいた」と見なされ、特例が不適用になったケースもあります。
さらに、貸付事業用地においては、相続開始直前に急いで土地を他人に貸しても、「節税目的の貸付」と判断されれば特例が使えない可能性があるため、計画的な準備が必要です。
手続きに必要な書類と提出タイミング
特例を受けるには、相続税の申告書とともに一定の書類を税務署に提出する必要があります。たとえば、次のような書類が求められます:
- 被相続人と相続人の住民票(同居の事実を証明するため)
- 不動産の登記事項証明書
- 土地の利用状況がわかる図面や現況写真
- 貸付事業用の場合は、賃貸借契約書や過去の確定申告書類
これらの書類を準備するには時間がかかることがあるため、相続開始後すぐに動き出すことが大切です。
また、申告期限は相続開始から10ヶ月以内です。
この期限を過ぎると、どんなに条件を満たしていても特例は使えなくなってしまいます。
書類の不備や提出漏れがあると税務署に受理されない可能性もあるため、必要書類は早めに税理士や専門家と相談しながら揃えるのがおすすめです。
特例を活かすための事前対策
この特例を確実に活かすためには、生前からの対策がカギとなります。たとえば、被相続人が高齢になり、相続が現実味を帯びてきたタイミングで「誰がどの土地を相続するか」を話し合っておくと、トラブルを避けやすくなります。
また、将来的に「家なき子特例」を使いたいと考える子どもがいる場合は、3年以上前から持ち家を処分して賃貸に住むなどの準備が必要です。こうした生前の住まい方ひとつで、数百万円の節税効果に差が出ることもあります。
さらに、貸付事業用地を活用する場合も、急ごしらえの賃貸契約ではなく、長期的に安定した貸付実績を作っておくことが特例適用への近道です。できれば5年以上の運用を目指し、賃料の入金履歴なども整えておきましょう。
このように、「いつか使えるだろう」ではなく、「どうすれば使えるか」を逆算して対策を講じることが、小規模宅地等の特例を最大限に活かすポイントです。
まとめ
小規模宅地等の特例は、相続税を大きく軽減できる非常にメリットのある制度ですが、適用されるためにはいくつもの条件をクリアしなければなりません。特に、相続人の居住状況や宅地の使用目的、相続後の管理・活用の仕方など、細かいルールに沿っていなければ、せっかくの特例が受けられないという落とし穴もあります。
たとえば、「同居していたから大丈夫」と思っていても、申告期限前に売却してしまったことで適用除外になることもあるので注意が必要です。
そのため、特例を活用するには、事前にしっかりとした対策と知識を持っておくことが不可欠です。
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//www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/sozoku/4124.htm