相続不動産の売却
相続不動産の売却が必要になる背景とは?
相続が発生したあと、家や土地などの不動産を「どうするか」で悩む方は少なくありません。たとえば、親が住んでいた実家を引き継いだけれど、自分はすでに別の場所に家を持っていて使う予定がない、というケースはよくあります。放置していると固定資産税がかかり続けたり、建物が老朽化して近隣トラブルの原因になったりすることも。そのため「思い切って売却したい」という選択が増えているのです。
また、兄弟姉妹など複数人で相続した場合、「公平に分けるには売却して現金化したほうがよい」と判断することもあります。売却は感情的に割り切れない面もありますが、現実的な手段として選ばれるケースが増えているのが現状です。
売却前に知っておくべき基礎知識
相続不動産を売るには、通常の不動産売却とは異なる注意点があります。まず、亡くなった方の名義のままでは売ることができません。法的には「相続登記」と呼ばれる名義変更の手続きを行い、自分の名義に変更してからでないと売却は進められません。
さらに、複数人で相続した場合は、全員の同意が必要です。たとえば、姉妹3人で相続していて、1人でも「売りたくない」と反対すれば、売却はストップしてしまいます。また、売却して利益が出た場合には「譲渡所得税」という税金が発生する可能性もあります。こういった点をあらかじめ理解しておくことが、スムーズな売却の第一歩です。
1.相続不動産を売却するための準備
相続登記と名義変更の手続き
相続不動産を売却する前に、まずやらなければならないのが「相続登記」、つまり名義を自分(あるいは相続人)に変更する手続きです。たとえば、お父さん名義の土地を引き継いだ場合、そのままの名義では売却はできません。法務局で手続きをして、自分の名義に変える必要があります。
この手続きには、被相続人(亡くなった方)の戸籍謄本や、相続人全員の戸籍、住民票、遺言書もしくは遺産分割協議書などが必要です。書類の不備や漏れがあると、登記が完了しないこともあるので、司法書士などの専門家に相談する人も多いです。
遺産分割協議と共有者の同意
不動産を兄弟姉妹など複数人で相続する場合、売却には全員の合意が必要になります。これを「遺産分割協議」といいます。たとえば、3人兄弟で実家を相続したとします。1人が「売りたい」、もう1人が「貸したい」、最後の1人が「そのまま残しておきたい」と意見が分かれていると、売却は進みません。
この協議では、不動産を誰が取得するか、売却して現金にするならどう分配するか、などを話し合って文書化する必要があります。協議がまとまらない場合は家庭裁判所の調停に持ち込まれるケースもあるため、なるべく冷静に、第三者を交えて進めることが大切です。
不動産の価値を把握する方法
売却の前に、その不動産がいくらくらいで売れるのかを把握しておくことも重要です。たとえば、築30年の戸建てが都心にある場合と、地方の空き家になっている場合では大きく価格が違ってきます。不動産会社に査定を依頼すれば、無料でおおよその価格を教えてくれるところも多いです。
また、最近ではインターネットで周辺の取引事例を調べることもできます。「レインズ・マーケット・インフォメーション」などのサイトでは、実際の取引価格を見ることができます。価格の目安をつかんでおけば、後々の売却交渉でも有利に進められます。
2.売却の手続きと流れ
不動産会社の選び方と媒介契約の種類
相続不動産を売却する際、まず頼りにするのが不動産会社です。しかし、どの会社に依頼するかで売却のスピードや価格に大きな差が出ることもあります。たとえば、「とにかく早く売りたい」と考えている人が、のんびり型の営業スタイルの会社に依頼してしまうと、希望通りに進まないこともあるのです。
選ぶ際は、地域の情報に詳しく、相続不動産の売却実績がある会社を優先すると安心です。また、媒介契約には「一般媒介」「専任媒介」「専属専任媒介」の3種類があり、それぞれに特徴があります。
「一般媒介」は複数の会社と契約できる自由さがありますが、一社ごとの対応はやや薄くなる傾向があります。一方、「専任媒介」や「専属専任媒介」は1社に絞って契約する分、手厚いサポートが期待できます。自分にとってどのスタイルが合っているかを、担当者としっかり話してから契約を結びましょう。
査定から売買契約までのステップ
売却の流れは大きく分けて「査定」「販売活動」「内覧」「価格交渉」「契約」という5つのステップで進みます。
まずは不動産会社に査定を依頼して、相場価格を把握します。ここで出された価格は「参考価格」なので、必ずしもその金額で売れるとは限りません。たとえば、同じエリアでも築年数やリフォーム履歴、日当たりなどの条件で価格が大きく変わります。
販売活動では、インターネットの物件サイトや不動産会社のネットワークを活用して、購入希望者を募ります。興味を持った人が現れると「内覧」に進み、実際に物件を見てもらいます。内覧時には掃除をしておいたり、明るい印象を持たせたりと、ひと工夫することで印象が変わります。
そして、購入希望者との価格交渉を経て、条件が整えば「売買契約」を締結します。この際、契約書には引き渡し日や支払い方法なども明記されるので、内容は必ず細かく確認しましょう。
売却時に発生する費用と税金
不動産を売ると、売却代金のすべてがそのまま手元に残るわけではありません。たとえば、不動産会社に支払う「仲介手数料」、司法書士に依頼した「登記費用」、契約書に貼る「印紙代」などがかかります。
また、売却益が出た場合は「譲渡所得税」も発生します。これは、買ったときよりも高く売れた差額に対して課税されるものです。たとえば、10年前に2,000万円で購入した家が3,000万円で売れた場合、差額の1,000万円が課税対象になります。
ただし、「相続で取得した不動産」には「取得費加算の特例」や「3,000万円特別控除」などの軽減措置があるケースもあります。これらは要件が複雑なので、税理士に相談して事前に確認しておくと安心です。
3.トラブルを防ぐためのポイント
相続人間のトラブルを回避する方法
相続不動産の売却では、親族間の意見の食い違いからトラブルに発展するケースが少なくありません。たとえば、長男は「早く売って現金化したい」と考えているのに対し、長女は「思い出が詰まっているから残しておきたい」と主張する…というように、感情が絡むため、話がこじれがちです。
こうした事態を避けるには、まずは「情報を平等に共有する」ことが大切です。不動産の評価額、維持費、将来の税負担など、具体的な数字をもとに話し合うと、感情論だけでなく現実的な判断がしやすくなります。また、第三者である不動産会社や司法書士を交えて協議を進めることで、冷静に話し合える環境をつくることも有効です。
どうしても意見がまとまらない場合は、「家庭裁判所の調停制度」を活用するのもひとつの手です。時間はかかるかもしれませんが、法的に公正な方法で解決を図ることができます。
税務署からの問い合わせ対策
相続不動産の売却後、税務署から問い合わせが来ることがあります。たとえば、「売却益の申告が正しくされているか」「相続税との整合性があるか」などがチェックされます。
これに備えるには、売却までの資料をしっかり保管しておくことが重要です。たとえば、購入当時の契約書や領収書、相続登記の完了書類、不動産会社とのやりとり記録などが挙げられます。また、売却金額や取得費用、リフォーム履歴などをまとめておくと、後の説明がスムーズです。
特に、譲渡所得税の計算に使う「取得費」が不明確な場合、税務署とのやりとりが複雑になるため、事前に税理士に相談しておくと安心です。
売却後の確定申告の注意点
相続不動産を売却した年には、必ず「確定申告」を行う必要があります。たとえば、1月に売却し、利益が出た場合は、その年の翌年3月15日までに申告を済ませなければなりません。
確定申告では、「譲渡所得」の計算が必要になります。売却価格から、取得費や譲渡費用を差し引いた金額が課税対象です。相続で得た不動産の場合、「取得費加算の特例」や「3,000万円特別控除」が使える可能性がありますが、申告書の添付資料や計算方法に注意が必要です。
たとえば、親が購入した当時の資料がない場合、「概算取得費(売却額の5%)」で計算せざるを得なくなり、税額が大きくなる可能性があります。書類がそろっていないと不利になるケースもあるため、なるべく早い段階で税理士に相談して準備を進めておきましょう。
まとめ
相続不動産の売却では、事前の準備や手続きに加えて、思いがけないトラブルへの備えがとても重要です。特に、相続人同士の意見の食い違いや税務署からの問い合わせなどは、事前の対応次第でスムーズに乗り越えることができます。
たとえば、「実家を売りたい」と考えている人が、ほかの相続人としっかり話し合いをせずに進めようとした結果、感情的な対立に発展してしまったケースもあります。そうならないためにも、不動産の状況や維持費などの情報を全員に共有し、必要であれば専門家に同席してもらうことが、円滑な話し合いにつながります。
また、売却後の確定申告では「譲渡所得の計算」に注意が必要です。必要書類がそろっていなかったために控除が受けられなかったという例もあるので、できるだけ早めに資料を整理し、税理士などの専門家に相談することが安心です。
相続不動産の売却は、ただ「売る」だけでなく、家族との調整や税務処理まで含めてトータルで考えることが大切です。冷静にひとつずつ進めていくことで、後悔のない形で次のステップに進むことができるでしょう。